巻頭言

 

日本復権の鍵を握る実装技術

小柳 光正


 コンピュータ技術やネットワーク技術の急激な進歩とインターネットの爆発的な普及は、国家間の障壁を取り除いて世界を一つのボーダレス社会へと変えてしまった。このようなボーダレス社会の中で、世界は、破壊の進む自然環境や枯渇する恐れのある地球資源、文化の違いなどを考慮しながら共生する時代に入っている。一方で、このようなボーダレス社会は世界的な規模での競争を加速し、世界は競争と共生のバランスの上に成り立つようになった。このような競争の中でも、経済戦争とも言われるように、経済をめぐる競争が熾烈となっている。経済的な繁栄は科学技術の進歩と密接に関係していることから、経済戦争は科学技術競争の表象と見なされ、世界の主要国はこれまで以上に科学技術の振興に努め、国家間の競争が激しくなっている。このような競争はハイテクの分野で特に激しい。その典型的な例は、80年代から90年代にかけて日米半導体戦争と呼ばれたDRAMをめぐる日米の競争であった。当時日の出の勢いのあった日本の半導体メーカは米国との過酷な競争に勝ち、世界の頂点に君臨していたが、その後の韓国の猛烈な追い上げと米国の必死の巻き返しにあって、現在では惨憺たる状態になっている。また、DRAMとともに日本のハイテク産業を支えたコンピュータ技術も、最近では米国の傘下に下ってかつての面影が薄くなっている。そして現在では、コンピュータ技術やネットワーク技術、通信技術は米国、ヨーロッパが、半導体製造は韓国、台湾、中国が世界の主導権を握り、日本はその狭間でもがき苦しんでいる状態となっている。このようなハイテク分野での日本の後退は、ボーダレス社会になってハイテク競争に参入する国が増えたことや、進歩の速度が急激に速くなったことに対する認識の遅れ、世界戦略の欠如、自己変革の遅れなどに起因している。
このような危機的な状態を脱却して、日本が再び繁栄を享受するようになるためには、日本の置かれている状況をよく認識して早急に効果的な対策を講じる必要がある。特に、日本のハイテク産業の中核である半導体産業における日本復権のためには、コストと数を重視した従来の量産技術志向から、付加価値の高い知識集約型の技術の開発に重点を移す必要がある。ハイリスク、ハイリターンの考え方に従って、他で真似のできないような付加価値の高い製品を一早く市場に供給して市場を抑えることや、新しい市場を自ら創製することがこれからは重要となってくる。そのためには、これまでのようなお手本追従型のやり方から脱皮して、新しいことに果敢に挑戦する積極的な姿勢と実行性、創造性に富んだ少数精鋭の柔軟な組織作りと人材育成が重要になる。このような柔軟な組織作りや人材育成と、これまでに日本が培ってきた技術の集積を活用することが日本復活の鍵を握っている。そのような意味で、実装技術は日本が培ってきた世界に冠たる技術であり、この技術的な財産を有効活用して半導体に付加価値を付けることが日本にとってきわて重要である。実装技術は、半導体技術やマイクロマシン技術、バイオテクノロジ、ナノテクノロジと融合すると、これまでにないような新しい集積システムの実現も可能となることから、日本がハイテク技術の分野で再浮上するための鍵を握っている技術と言っても過言ではない。エレクトロニクス実装学会会員諸兄の一層の活躍を期待する次第である。

本会理事/東北大学大学院工学研究科教授
「エレクトロニクス実装学会誌(Vol.6、 No.2)」巻頭言より


×閉じる