巻頭言

 

電子システムインテグレーションと

新「実装技術(者)」像

貫井 孝


   今から30年前、1970年代のIC登場の初期には、「実装」を「電子機器の総合的立場から機能を十分に発揮できるような各種設計を包含した機器の構成・組み立て工法技術」と捉えていた。これはよりシステム志向的な斬新な説明(IC化実装技術:工業調査会,1979)である。IC/LSI化が進み成熟化した結果、実装にとって「デバイスは与えられるもの」という概念が強まり、「組み立て技術」の域に収まってきたのが実態と考えられる。別の言い方をすれば、IC工場の当初は、トランジスタの配置を含めたかなりの設計を実装が担っていたのに対して、ICの高度化が進に従って、主要な回路設計がIC内部に取り込まれ、残されたより機械的な部分とそれにまつわる部品/材料のみを実装分野が担当してきたと見ることもできる。
   したがって、時を経ると共に「実装技術」が「組み立て技術」的な色彩を軸に語られ、認識されてきたのは、その源流を辿れば否定できないことであろうし、また、そのさまざまな分業体制の中で、貢献してきたことも事実である。
   別の言い方をすれば、ICを作るグループ、パッケージ化を行うグループ、基板や関連材料を作るグループ、基板にマウント/リフローするグループ、商品システムを形作るグループ、それぞれが自らの領域をまっとうすれば、コトはなんとか済み、ある意味ではそれぞれの手離れが良かったとも言える。
   しかし、時の流れはドラスティックな状況の変化をもたらしている。①通信・放送における変革(インターネットの浸透、デジタル化、通信・放送の融合など)、②半導体技術における変革(超高集積化、高速化、システム化など)、③これらに伴うネットワーク・モバイル商品群の登場(携帯電話の進化、パソコン・モバイル機器の多様化)、④環境・安全問題の急浮上(鉛フリー、EMI、ノンフロンなど)、⑤生産の海外展開(中国の急成長と日本の製造業の対応)など、われわれを取り巻く環境は、「実装」に大きな課題を提示している。とりわけ、③においては、コミュニケーション手段の多様化や「ネットワークライフ」の進行の中で、商品に求められる要求事項は、従来の「軽薄短小」だけではすまなくなっている。もっと言うならば、機器のハードウエアやソフトウエアの先端要素技術を蓄積して機器に搭載することに専心するだけでなく、原点に立ち返り、潜在的、顕在的なユーザニーズを適格に把握し、それを具現化する要素を広い視点から抽出することから始めなければならない。従来の企画マンが提示するものを技術的にトレースすれば良い時代ではない。自らが一事業家の立場で時の流れと生活スタイルを見つめ、WHATを追求することが大切ではないだろうか。
   このためには、もはや従来の「実装」「組み立て技術」的な領域を超え、技術の枠組みをとりはずし、材料・システム構成・生産技術・設計など幅広い総合的見地からユーザを直視し、それに適応できる技術体系を築いていく必要がある。すなわち、「プロダクトにおけるシステムデザインかつシステム集積化技術」と位置づけ、システムをユーザに対して最適化するための課題の抽出とその解決・実現にあたる旗頭として、今まで常にデバイスと商品の間でアクティブに動いてきた「実装技術者」が大きな役割を果たすべき時であると考えている。
   デバイスから商品・ユーザとを連結する思想を持ち、従来の枠組みに囚われず、トータルシステムの最適化を求めて科学的・学術的アプローチをする---そんな新実装技術(者)の登場が、21世紀のエレクトロニクスの中核を担い、それが日本の製造業の復権に寄与するのではないかと期待する次第である。

本会・副会長/シャープ 電化商品開発センター所長
「エレクトロニクス実装学会誌(Vol.5、 No.7)」巻頭言より


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