巻頭言

エレクトロニクス実装技術の

高付加価値化を目指して

嶋田 勇三


 今年度、編集委員会を任されることになった。実装技術の発展がエレクトロニクス機器の付加価値向上に極めて重要であるという視点から、エレクトロニクス実装学会への期待と、学会誌の役割について述べさせていただきたい。
 最近、科学技術に興味を持ってもらう施策が各方面で盛んに行われている。もの作りの重要性、喜びを知ってもらおうという試みである。このことは、逆に言えば、わが国の科学技術離れ、もの作り離れが深刻に進んでいることを示している。実装ハード技術は、もの作りの技術であり、この技術の空洞化が大きな問題であると認識している。
 70年代から80年代前半の大型コンピュータに代表されるエレクトロニクス機器は、垂直統合型ビジネスが主流であった。専用LSIを作り、メモリーやオペレーションシステム、アプリケーションソフトまで全て独自で開発していた。独自開発デバイスに対しては、独自のハード技術が必要であり先端的な実装技術の開発が必須であった。しかし、ノートPCが普及する90年代になると主要部品も標準化や低コスト化の流れの中で、水平分業的なサプライヤーが登場し、競争力を持つようになった。さらに、サブコン、EMSの台頭により、わが国の実装ハード技術の空洞化が顕在化するに至って、この分野の育成強化が大きな課題となってきた。高付加価値製品を作るためには、優位性の源泉である実装ハード技術の開発が極めて重要である。各分野で必要となるコア技術の技術ポテンシャルを高めておかなければ競争優位性のある製品を実現できない。
 エレクトロニクス実装技術は、先に示したようにもの作りの技術であり、科学技術の多くの分野を包括した総合的技術領域である。半導体技術、材料技術から電気回路、光技術、信頼性技術、さらには生産技術、製品化技術等々にわたる広範な技術が関連し合っている。このように、従来の枠を越えた技術分野として捉えていくことが必要であり、それに対応した大学、国立研究所の取組が今後ますます重要になってくる。一方、産業界においては、専門領域にとらわれない幅広い技術展開、製品企画、マーケティングからの実装技術のあるべき姿を追求する試みが必要であると思われる。
 このような流れの中で、エレクトロニクス実装学会の果たすべき役割は大きい。産学が一体となった幅広い取組が、わが国の実装ハード技術を強化し発展させていく原動力になるわけであり、当学会がその中心的活動を担う存在であると確信している。また、弱体化した実装技術の底上げをおこない、もの作りにおいて世界をリードする技術レベルを保持できるように積極的な活動と場の提供を期待したい。
 そのためには、学会として発信する情報が極めて重要であり、学会誌を充実させることが何よりも大切である。編集委員会を中心に取り組んでいる。特集記事、研究論文、技術論文を含め基礎講座や各種紹介等と、会員のみなさんにとって有用な情報をタイムリーに提供できるように努力していきたいと考えている。また、新しい企画にも積極的に取り組み、会員の期待に応えていきたいと願っている。

(社団法人エレクトロニクス実装学会常任理事,編集委員会委員長, 日本電気)
「エレクトロニクス実装学会誌(Vol.4, No.6)」巻頭言より


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