巻頭言

IT社会における電子技術者

築山 修治


   経済再生の足がかりにと,IT社会の形成に,政府も本腰を入れだしましたが,IT社会の必須アイテムといえば,携帯情報端末です。その実現には,無線利用の小型軽量化が不可欠であり,電子回路の低消費電力化・高速化・高密度化を一層推進しなければなりません。従って,エレクトロニクス実装技術は,これまで以上に重要な役割果たす必要があり,日本電子産業の盛衰を担うことになると言っても過言ではないでしょう。
   携帯情報端末のような高速・高集積回路の実装設計においては,電磁放射の問題,クロストーク雑音や遅延などに対する信号保全の問題,電源電圧降下や電源雑音の問題,LSIの発熱問題,ならびにそれによる基板の変形と接合部の破損の問題,さらには部品実装装置による実装順序の問題など,種々の設計課題があり,これらの課題の重要性や困難度は,ますます増大しています。
   これらの設計課題に対処する技術の一つにシミュレーションがあり,21世紀最初の本誌全冊特集のテーマに,このシミュレーション技術が取り上げられたことは,設計の重要性が認識されているからだと思います。本号では,現状を理解して頂く手がかりにと,上記の課題に対して,理論の解説から,シミュレーションの応用例まで,招待論文と投稿論文が掲載されています。
   ところで,シミュレーション技術は,主に検証・確認に用いますが,ここ数年,この確認を怠り,社会的問題を引き起こしている団体が多くなっているようです。現代社会はグローバル化・複雑化していますから,局所的な問題が直ちに全体に影響を及ぼします。我々は,そのような社会において,ものを設計・製造しているのだ,そして,人間は間違いを犯すものなのだ,さらに,機械も故障するのだということを,常に心に留め,確認を怠らないようにしなければなりません。おそらく,本会会員は,問題の本質を理解しておられるでしょうから,コンピュータが出した結果を考察せずに利用するということはなく,得られた情報を用いて結論を導く際,十分な思索をなさっていることでしょう。
   しかし,情報を検索・発信する能力や,プログラム利用技術は,IT社会のリテラシとして,教えようとしていますが,得られた情報を吟味せよとか,検討してから利用せよということは,余り言われていません。IT社会では,個人が情報を発信できますから,不確かな情報や,誤った情報,さらには悪意のある情報まで,インターネットを流れており,今以上にグローバル化しています。それゆえ,我々は,直ちに結論に飛びつかないで,十分な思索を行った後に情報を利用するという技術者的思考を,世の中に,特に若者に繰り返し伝えて行く必要があるのではないでしょうか。

(社団法人エレクトロニクス実装学会「回路・実装設計技術委員会」委員長, 中央大学教授,)
「エレクトロニクス実装学会誌(Vol.4, No.5)」巻頭言より


×閉じる