巻頭言

実装技術者のモチベーション向上を目指して

齊藤 雅之


 エレクトロニクス実装学会が発足して2年が経過した。私は前身の社団法人エレクトロニクス実装技術協会の時代から,ワークショップや研究会の企画/運営に参加させていただいている。ワークショップなどには毎回若い研究者を中心に大勢の参加があり,最新の技術課題や将来の技術トレンドの議論で大変盛り上がる。しかしながら,ここ数年,懸念されることが2つある。1つは,参加者の顔ぶれが,企業単位あるいは部門単位で見ても,あまり変わっておらず,新規の参加企業/部門からの参加者が少ない。もう1つは,実装技術者が会社の垣根を越えた場においても、なおこじんまりとまとまり,自らが将来の電子産業界を支える技術/製品を牽引していくといった気概,エネルギがあまり伝わってこないのである。 この理由を考えてみると,第1には実装技術が製品設計部門と比較して,もともと縁の下の力持ち的な立場であるということもあろうが,特に最近注目されている「IT/情報分野」へのリソースの集中によって,これまで以上に実装技術が脇役的な感覚に陥ってはいないだろうか。
 第2には,この10年の産業構造の変革で製造拠点が労働力の安い海外に移り,これまで国内で培ってきた技術が容易に海外で実現されるようになった。そうなると新製品の段階からいきなりコスト競争に巻き込まれ,技術志向の強い研究者が,「コストの壁」を乗り越えられずに挫折感を味わっているのではないだろうか。 日本の電子産業が諸外国と比して優位性を維持している要因の1つは,高密度実装技術によると言われている割には,現在の実装技術者を取り巻く環境は,必ずしも追い風ではない。実装技術はわれわれ製造業にとって,モノ作りの基盤技術であり,重要な製品の差別化技術である。そのため,産・学共同で実装技術の高度化・産業化を目的に設立された本学会に対する期待は大きい。
 本年度から会長に就任された多田・横浜国立大学教授は,「会員の増強」を施策として打ち出している。これまでの実装技術関係者だけでなく,異分野の技術者も含めて会員が増えれば,思考範囲が広がり,例えば,「IT技術と実装技術との融合」などこれまでとは違った視点の取り組みに進展する可能性も出てくる。今回,私は新理事としてこの学会の運営に新たに参画することになった。21世紀の電子産業を発展させる原動力となるべき実装技術者が,その能力をいかんなく発揮させるためにも,技術のバックボーンとなる学会を活性化させるとともに,実装技術者自身のモチベーション向上に向けて微力を尽くしていきたい。

(JIEP理事,東芝生産技術センター実装技術研究センター センター長)
「エレクトロニクス実装学会誌(Vol.3, No.6)」巻頭言より


×閉じる